03

 12月14日
 思いのほか集中出来たサンタは、あれだけの数の手紙を……と言っても、ルドルフに比べれば断然少ないのだが、2週間も掛からずに読破することが出来た。ルドルフよりも少ない理由としては、サンタがある妙案を思いつき、それを実行したことが上げられる。
 世界中のサンタクロース協会へ、『英語が分かる子供は出来るだけ英語で書いて欲しい』という手紙を送りつけ、告知のポスターなどにそれを書き添えてもらっていたからだ。サンタクロース一族は世界中の言語を全て理解出来る能力を持ってはいるが、手紙を読み、更にはそれをメモするのは大変な作業だ。だから昔からサンタクロースの相棒でもあるトナカイがその作業を手伝うことになっていた。しかしルドルフは、昨年までドイツ語しか理解することが出来なかったため、サンタはルドルフを調教し、英語を叩き込むことを思いついた。そうすれば英語で送られる手紙は毎年群を抜いて多かったため、少しでも楽が出来ると踏んだからだ。そんなことがルドルフに知れたら、きっと激怒どころでは済まない事はサンタも重々承知している。だからその事だけは自分だけの秘密だ。アンナに言おうものなら、きっと弱みを握られてあれやこれやと願望を要求されるに違いない。

 サンタは目頭を押さえて、疲れた目のコリを解すようにマッサージすると、すっかり綺麗になったテーブルの上を見て満足げに頷く。しかし床に視線をおろすと、今まで読んだ何億という手紙が未だ散乱したままだった。
 とりあえずサンタは、自分のメモした物とルドルフから聞きながら書いた物を合わせて、膨大な枚数となったメモ帳の束を持ち、家の外へと出て行った。

 この2週間、家に篭りっきりだったサンタは、久しぶりの外の冷たい空気をめいっぱい吸い込んで、肺を自然の息吹で満たす。伸びをして深呼吸すると、サンタは階段を下りていった。
 そして巨大な電子パネルの前まで来るとそれを操作する。すると機械の下半分が大きく口を開け、液晶に『メモを入れてください』と表示された。
 サンタはメモを全て押し込むと、指示に従いパネルを操作する。鈍い可動音が鳴り、しばらく待つと、チンッ、という音と共に再び液晶に文字が表れた。『クリスマスプレゼントの注文を承りました』

 「よし、これでしばらくは暇になるな」

 サンタは嬉しそうな笑みを浮かべると、足早に家へと帰って行く。
 注文した子供達へのプレゼントは、街外れにある工場で全て作られる事になっていた。毎年何かは、作れないから“外”で購入してきてくれと、逆に注文書を送りつけられることもあるが、1日経っても送られて来ないところを見ると、どうやら今年は大丈夫なようだ。

 これからの1週間、今まで詰めの作業をしていたサンタは、その分羽を休めてのんびりと過ごした。そう、あの手紙が来るまでは……。


 12月22日
 クリスマスまであと3日と迫った今日。サンタはいつものように玄関のドアを雑に開け、新聞紙を取りにポストまで歩いていった。するとふと目をやった電子パネルに「1」という数字が表示されているのに気付く。

「あれ、なんで入ってんだ? もう受付はとっくに終わってんのに。……もしかして郵便のおっさん間違えて入れたのか? めんどくせ」

 小さくため息を吐き、サンタはパネルを操作して蓋を開けた。たしかに箱の中には1通の真っ白な封筒が寂しく横たわっている。サンタは更にパネルを操作すると、箱の床がせり上がって来た。やがて床は地面と水平になるまで上がると自動で止まる。
 サンタは床を歩いていくと封筒の前で足を止めた。そしてその封筒をおもむろに拾い上げ、表と裏を確認する。そのどちらにも差出人の名前と住所が表記されておらず、ただ『サンタさんへ』と書かれているだけだった。
 サンタは封筒を訝しげに見ると、一瞬血の気がサーッとひいた。

「ま、まさか不幸の手紙とか? ……んなわけねえか」

 自分は感謝されても恨まれるような事は一切ないと、自らに言い聞かせ妙に納得し頷くと、サンタはポストから新聞を取り出し、封筒と共に持って家へと帰っていった。
 リビングへと戻ったサンタは持っていた新聞を円卓に投げ捨て、ソファーに座ると封筒の口を破り中を開ける。すると中から出てきたのは、安そうで何の飾り気もない2つ折りの紙だった。中を開くと所々汚れており、その内容を読んだサンタは言葉を失った。
 その手紙には「パパをください」と書かれていたからだ。

「……パパ? パパって何だ。……おもちゃか? もしかして民族的な何かか? ……まさか……父親、のことじゃないよな?」

 サンタはしばらく足りない脳を振り絞り唸って考えてみたものの、パパと聞いて思い浮かぶものが1つしか心当たりがない事に気付いた。

「一体何考えてんだ、このガキんちょは? えーっと住所住所……あれ、書いてない」

 サンタは再度上から下から見返してみる。やはりどこにも書かれていない。閃き今度は裏を見てみるも、やはり表記されていない。

「何なんだよ、悪戯か?」

 そう思いながら封筒を手に取ると中から小さな紙切れが、舞い散る花弁の様にひらりと落ちた。それを拾い上げたサンタクロース。

「あ、書いてあった。つうか紛らわしいわ!」

 書かれていたものを読み取ると、差出人はどうやら少女のようだ。名前はソフィー。住所はフランスのロレーヌ地方にあるドンレミ村。

「パパが欲しいって……どういうことだよ」

 サンタは少し自分の両親を思い出していた。すると突然、思い浮かんだイメージを払拭するように頭を振った。

「あんな道楽な親はどうだっていいんだよ、問題はこっちだ」

 そう言ってサンタは再び手紙を見つめる。改めて見たその文字からは、なんだか弱々しく心寂しい感覚を受ける。サンタはしばらく悩んだ後に決心した。

「しゃあねえ、一度偵察しに言ってみるか。この子がどんな子か」

 ソファーから立ち上がったサンタはクローゼットへ歩いていき、中からサンタのスーツ一式を取り出した。アンナの家へ弁当箱を届けに行って以来、着ていないスーツの袖に腕を通す。クリーニングに出し、人型ハンガーに掛けたことでスーツはその機能を最大まで回復させていた。
 着替え終わったサンタはもう一着クローゼットから取り出す。スーツの上に羽織るカムフラージュ用の、ファーの付いた黒のコート。滅多に着ることのないそれは皺一つなく新品同様だった。

「さて、あいつは起きてっかなー。まあ、寝てたら蹴り起こしてやるだけだけどなー」

 コートを羽織るとサンタは家を後にする。玄関の鍵を閉め、サンタがいないことを知らせる為に、扉に『CLOSE』の掛札を掛ける。そしてサンタはルドルフのいる小屋へと歩いていった。

 厩舎の前まで来ると、サンタは一度深呼吸をし中で寝ているであろうルドルフに1度声を掛ける。

「ルドルフー、仕事だぞー!」

 結構大きな声を出したにもかかわらず、しばらくしてもルドルフの返事は聞こえてこない。サンタはニヤリと笑うと、思いっきりそのドアを蹴り開けた。
 まるで鉄砲を撃ったかのようにバンッ、という音をたて開いた扉の前には、ルドルフが機嫌の悪そうな顔をしながらファイティングポーズをして立ち構えていた。驚いたサンタがバランスを崩し前のめりになったところへ、ルドルフのカウンターでストレートが飛んでくる。受け流すことも出来ず、サンタはそのパンチを顔面に受け、いつぞやのように雪原へと吹っ飛ばされた。
 積もった雪に出来た人型のシルエットの中から、サンタは顔を出すと眉間を押さえながら言った。

「いてぇな、クソトナカイ! 蹄鉄で殴んなっていつも言ってんだろ!!」
「……」

 ルドルフは肩をすくめ主人を馬鹿にしたような顔をし、しっしっと蹄を振ると小屋の扉を閉める。サンタはその態度に激怒したが、それをなんとか堪え扉越しにいるルドルフに諭すように話しかけた。

「ルドルフくーん……ぐ……ダブル、XLのケーキは、如何かな?」

 そう言うサンタの顔は引きつっている。物でしか釣れない自分の未熟さと、主人を主人とも思っていないトナカイに苛立ちを感じながらも、結局トナカイに頼らなければサンタクロースは何も出来ない事が自分自身情けなかった。
 中でごそごそ音がしたかと思ったら、急に扉は開けられた。ルドルフが出てきたのだ。しかもハーネスを取り付けソリと繋いだ状態で、ソリを引きずってきた。
 そしてルドルフは雪原に足を踏み入れる。しかしルドルフの脚が雪に沈むことはなく、ソリもまた同じだった。サンタを横目でちらりと見ると、ルドルフは鼻を鳴らし角を振る。どうやら早く乗れとサンタに言っているようだ。
 サンタはゆっくりと立ち上がると、ルドルフに声を掛ける。

「まったくよ、てめえはいつも素直じゃねえな」

 そう言ってサンタはソリに乗り、ルドルフに掛けられたハーネス、そこから伸びる手綱をしっかりと握り締めた。

「ルドルフ、フランスのドンレミまで飛んでくれ」
「…………」

 サンタの言葉に頷くと、ルドルフは雪を蹴り走り始めた。まるで普通の地面のように、雪の上を滑走するルドルフ。ある程度の距離を走ると、ルドルフの身体が宙に浮き始める。そしてルドルフに繋がれたソリも同じように宙に上がると、ルドルフはサンタをソリに乗せ、空へと飛んでいった。
 サンタが住むグリーンランドから、少女が住んでいるフランスのドンレミ村まではおよそ3,500km。ルドルフは歴代のサンタのトナカイの中でも屈指の馬力を誇る。そのため、30分かからずにドンレミ村へ到着することが出来た。
 サンタは人に見つからないよう警戒しながら、村から少し外れた森の中へルドルフを下ろす。スーツの上にコートを羽織ると、サンタはルドルフに声を掛けた。

「ここで大人しくしてろよ」
「……」

 ルドルフはサンタの言葉に頷くと、立派な角で森の木に攻撃を仕掛ける。ゴスッゴスッと鈍い音をたてて木の皮が剥がれていく。ルドルフには、木を見るとその皮を剥がしたくなる妙な癖があり、それを見たサンタは頭を押さえ、呆れた表情でその場を離れた。
 やがて森を抜けると、小さな村が見えてきた。ドンレミ村だ。入口を入ってすぐ見えてきたのはジャンヌ・ダルクの生家とされる家で、石造りの2階建てで外観はとても質素なものだった。

「ジャンヌ・ダルクか……」

 サンタは考え深げにその地味な建物を見つめている。ジャンヌは「オルレアンの乙女」とも呼ばれるフランスの国民的英雄だ。カトリックでは列聖され、聖人となっている。
 初代サンタクロースである聖ニコラウスも、ジャンヌと同じく聖人に列聖されている人物だ。サンタは小さな頃から聖書を読まされた。小さかった頃は、祖父である前サンタクロースが読み聞かせたりしていた。まるで絵本のように。
 だからキリスト教に関する知識が並みの人間以上には備わっている。自分にも聖人の血が流れている、そのことが少し不思議な感覚なのだろう、サンタはジャンヌの家をボーっと見つめている。

 すると突然、村の教会の鐘が鳴らされた。その音にハッとして気付いたサンタは、現実に引き戻されたのを感じる。

「そうだった、手紙の住所を探さなきゃな」

 これからミサでも始まるのだろうか。狭い村に建つ数十戸しかない家々から、人々が次々に出てきた。サンタはそんな中1人の村人の女性に声を掛ける。

「あ、ちょっと悪いんだが、この住所を教えてくれないか?」

 サンタは封筒の中に入っていた、住所の書かれた小さな紙切れをポケットから取り出して女性に見せた。女性は「あぁ」と言って村の向こうを指差し、丁寧に道順を教えてくれた。
 どうやら村の奥にある小さな孤児院らしい、と言うことが今の説明により判明した。

「孤児院?」

 サンタは女性に礼を言うと、その孤児院を目指して歩き始めた。
 道中、ほぼ一本道のような道のりを歩き、やがて見えてきたのは小さな教会だった。ここドンレミ村にはいくつか教会があるが、そんな中でも一際小さい教会だ。屋根の上には、これもまた小さな十字架が申し訳程度に聳(そび)え、入口扉の頭上にも十字のレリーフが施されている。そして教会の横からは長方形の別の建物らしきものが生えるように突き出していた。サンタはそちらへ近寄ってみると『天使たちの家』と看板に書かれているのが目に入った。どうやらここがあの手紙を送った少女の家らしい。

 サンタは辺りを見渡しても人の姿がない事に気付いた。先ほどの鐘の音はミサを知らせるものだったはずだ。この教会はそれに使われていないのか、そう思いサンタはまず教会に足を踏み入れた。
 中は外観通り本当に狭く、備え付けられた長椅子も、全部で10席しかなかった。通路の幅も狭く、ただ祈りの為だけに作られた簡素な教会であることは否定のし様がない。
 教会の中央奥には、台の上にキリスト像が置かれ、更にその奥の窓には小さいながらも、聖母子像のイコンが綺麗なステンドグラスで嵌め込まれている。そこから降り注ぐ色を帯びた光のシャワーは、飾り気のないシンプルで寂しい空間に、ほんの少しの荘厳さを称えていた。

 サンタはその光を切なげに見つめている。すると突然、奥の関係者用出入口らしき扉が開かれ、若い綺麗な女性が教会内へと入ってきた。

「あら?」

 黒の修道服に身を包み、頭にベールを被ったシスターは、サンタの姿を見つけ声を掛けた。

「どうなさいましたか?」
「え、あーいや、えっと……」

 ボーっとしていたサンタは急に声を掛けられ対応に戸惑っていると、シスターはそれを尻目に、手に持った花を花瓶に生けていく。それは純白のバラだった。手際よく花を入れ替えたシスターは、枯れかけのバラを持ちサンタの方へと歩いていく。

「お祈り、ですか?」
「いや、違うんだ。ちょっと聞きたいんだが、あんたはここの孤児院の人か?」
「え? はい、そうですけど」

 サンタに質問されたシスターは不思議そうな顔をした。サンタは構わず話を続ける。

「このソフィーって子はこの孤児院にいるんだろ?」

 そう言ってサンタはコートのポケットから封筒を取り出し、シスターに手渡した。シスターはそれを受け取ると驚いた様子で、サンタに問いかける。

「どうしてあなたが持ってるんですか? これはサンタさんに送ったはずなのに」

 サンタを見るシスターの目付きが、あからさまに不審者を見るようなものへと変わった。

「あんた頭おかしいのか? 俺はサンタクロースだ、この格好見ても分かんねえのかよ。だから持ってんだろうが」

 サンタが憮然とした表情でシスターの目を見つめながらそう言うと、シスターは少し照れた様子で一歩前へ歩み寄り、顔を赤くしながら頷いた。

「そ、そうですね、あなたはサンタクロースです」
「おいおい、そんな簡単に信じていいのかよ。まあ信じてもらえないよりはマシだけどな。……大丈夫かこいつ」

 サンタは少し心配になりながらも、ずいずいと迫り来るシスターを両手で引き離し、長椅子に腰掛ける。

「ところでサンタさんがこんな所になんのご用ですか? まだクリスマスまで3日もあるのに……あ、もしかして日付を間違えちゃったとか? 案外ドジなんですね」
「おい、勝手に納得してんじゃねえよ。別に間違えてなんかねえっつうの」
「でしたら……」

 自分の予想が外れたことを残念に思ったのか、シスターは拗ねた様子でサンタを見返した。

「この手紙、あんたは読んだのか?」
「? いいえ。私はポストに手紙を投函しただけですけど?」
「なら読んでみろよ」

 そう言ってサンタは半分に折られた手紙をシスターに手渡した。シスターはそれを受け取ると開いて中を読む。一瞬で読み終わるとサンタに視線を戻し、どこか悲しそうな顔をした。

「その意味っていうか、その子が一体何を考えてるのかちょっと気になってな」
「そう、ですか」
「世界から集まった手紙の中でそんなこと書いてたのはこの子だけだったんだ。今まで6年間サンタやってきたけど、そんなこと書かれたのも初めてだしな……だから、どういう子か気になったんだ」

 シスターは俯き目を閉じた。ややあって目を開けると、「あの子は、孤児です」と口火を切り、ぽつりぽつりと話し始める。サンタはその内容を聞いて理解した。少女がなぜあんな事を書いたのか。

 少女が生まれて直ぐに、母親は病で亡くなったそうだ。亡き妻に代わり、父親が少女を育てた。愛する妻との間にもうけた1人娘。父は娘にこの上ない愛情を注ぎ込んだ。そんな父親の事が、少女は大好きだった。しかし不幸は突然舞い降りた。その日は少女の誕生日だった。父親は街で大きなぬいぐるみのプレゼントを買って家へと帰る途中、車に轢かれ不慮の事故によりこの世を去ってしまう。大好きだった父の死、少女は知らせを聞いて悲しんだ。届けられた猫のぬいぐるみを抱き、大粒の涙が床を濡らす。
 翌日、葬儀が終わった後、少女には頼れる身寄りもないことに気付いた村人は、この孤児院に預けることにしたそうだ。明るかった少女はそれ以来、誰とも笑わなくなり無口になってしまったらしい。
 この孤児院には他にも何人か子供がいたようだ。みんな里親に貰われ養子となったそうだが、少女だけは頑なにそれを拒み続けていると言う。

 話を終えたシスターの目からは涙が零れ落ちた。すすり泣く声が、狭い教会内に響く。

「なるほど、そういうことか。……よし、俺に任せろ!」

 サンタは立ち上がり、椅子に座って泣いているシスターの頭を優しく撫でると、そのまま教会を出て行こうとする。

「あ、あの、ソフィーに会っていかないんですか?」

 シスターは鼻をすすりながらサンタの背に向かって問いかけると、サンタは立ち止まりシスターに振り向き呆れた顔をして言った。

「あんた、頭おかしいのか? こんなところでサンタクロースの正体ばらしてどうすんだよ。サプライズになんねえじゃねえか。まあ驚きはするかもしれないけど、サンタのプレゼントはクリスマスって、相場が決まってんだよ」

 そう言って笑うサンタの瞳はキラキラと輝いていた。まるで無邪気な子供のように。シスターにさよならを告げると、サンタは教会を後にした。
 ドンレミ村を出て森へ入ったサンタは、ソリを置いてきた場所へと走って戻る。

「あれ? えっと、確かこの辺に……っ!?」

 周辺を見渡したサンタはその光景に驚愕した。見渡せる範囲にある木の幹が、地面から約1m程の所まで皮を全て剥がされていたからだ。むき出しになった木の表面には、猛獣の爪痕のような、それにしては太すぎる傷跡が無数に残されていた。

「あの馬鹿はなにやってんだ!」

 サンタはまだこの周辺にいるであろうルドルフを急いで探した。探し始めておよそ5分。思ったよりもルドルフが遠くへ行ってなかったことにひと安心したサンタは、木の根元に角を突き刺したまま器用に眠るルドルフを叩き起こした。

「このクソトナカイ! さっさと起きろ!」
「ッ!?」

 いつものように目覚め、眠気眼をサンタへ向けるとルドルフはシュピッと敬礼をし、立派な角でサンタをすくい上げるとソリに放り込んだ。そして滑走を始め森を一気に駆け抜ける。森を抜けると同時にルドルフは宙に浮き、ダブルXLサイズのケーキが待っていると思い込み、サンタのログハウスへと急いで帰るのだった。

 途中、ルドルフの気合が何故入ったのかをサンタは察し、家にダブルXLなんてケーキがないことを思い出すと、サンタはスーツとコートをクリーニングに出すということを口実に、街へ行き『Noel』へと立ち寄った。
 予約でないにもかかわらず、アンナを始め店の従業員たちは嫌な顔一つせず、笑ってオーダーを聞き入れてくれた。珍しくサンタは何度も頭を下げて礼を言う。
 そして4mにもなるケーキ箱をソリに乗せると自身も座り、店の人たちに手を振り家へと帰っていった。

 雪原のログハウスへと戻ったサンタは、興奮したように角を振り回すルドルフを小屋へ押し込め、ケーキの箱を地面に置いてやる。目の前で開かれる箱を血走った目で見つめ、ケーキが露になると同時にルドルフはケーキにがっついた。
 疲れた表情でそれを見届けると、サンタは厩舎を後にし、ハウスへと帰った。